チェリーの暮らし

日々の気になることつれづれ

原作と映画のはざまで‥「ミッドナイト・イーグル」

福井晴敏の「亡国のイージス」が海洋を舞台とした謀略サスペンスの名作ならば、こちらは山岳を舞台とした謀略サスペンスの雄編。
吹雪の冬山でのサバイバルや、大雪崩の恐怖、雪上での銃撃戦など、山岳アクション活劇の趣向は楽しめるし、夏場に読むと多少の冷房効果も味わえるかも。
しかし、圧倒的質量でぐいぐいと読ませる「亡国のイージス」と比べると、こちらは構成が単調な分やや読み応えの面で物足りなさが残るのは否めない。壮大なスケールの割には内容がこじんまりとしすぎている。すべてを浄化しておしまい、という結末も納得できないものがある。欲を言えばさらにもう一つひねりがほしかったところ。
この手の作品には、活劇の合間に何らかの人間ドラマが盛り込まれていくのが常道だが、本作のそれは過去の悲しい出来事によりすれ違いになってしまった西崎と慶子夫婦の絆の再生である。しかしふたりは物語の進行において、一度も顔を合わすことがない。ふたりが交わすコミュニケーションの方法は、頼りない無線機を使ったわずかな会話と、お互いの仕事への信頼感しかない。それでもふたりの絆は再生できた。ある意味極限の状況においてのラブ・ストーリーでもある訳だ。